1999/12/04 日本経済新聞

 福祉やまちづくりに取り組む市民団体に法人格を与える特定非営利活動促進法(NPO法)の施行から一年。法人格を取得した団体は累計で千団体を越えたが、活動を広げるには資金面の基盤づくりが欠かせない。米国のNPOを対象にしたコンサルタント・インサイツ・イン・アクション(メリーランド州)の東京事務所代表を務める岡見浩子さんに、米国NPO流の資金調達術を報告してもらった。

米NPOの資金調達術

 私は日本でNPOの資金集めについてよく相談を受けるが、一部の人の間には、非営利活動に経済の概念を持ち込むことに抵抗が強いようだ。無給で働くボランティアらに支えられているので、「カネもうけ」をしてはいけないと考える人が多いと思われる。

 これに対して米国では、NPOでも公共の目的に再投資するなら、収入を増やすよう努力するのは当然という認識が定着しており、資金調達力に磨きをかける効果を生んでいる。調達機関AAFRC(ニューヨーク)によると、企業や財団、個人などから米国のNPOに対する資金提供は、98年に1740億ドルにのぼったと言う。前年比1割程度の伸びを記録しており、そのうち77%を個人が占めた。

 だが、簡単に資金が集まるわけではない。NPOは活動を通じて支援者の共感を得るのはもちろん、絶えず調達の手法を工夫している。最近目立つのはインターネットの活用だ。

ネット通販や長距離電話料を利用

”手軽に寄付”知恵絞る

専門家の活用も

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 好調な経済を背景に消費者の購買意欲は強い。特に若者に、消費額のうちのいくばくかを寄付に回してもらうため、彼らがよく使うネットの通信販売を利用するNPOが、この2,3年急増している。売り上げの一部を寄付するネット通販は、単なる通販と違って買い手に対し公共に役立つという満足を提供できる。

 例えばコネティカット州のベンチャー、ウェブ・チャリティー・コムが運営するホームページでは、ネット上で主に個人を対象にリサイクル品売買の仲介やオークションを実施し、一定の手数料を取った上で売り上げをNPOに提供している。700程度のNPOが参加しており、ネット上に動物保護、環境、教育など分野別のリストが掲載されている。買い手はその中から寄付したいところを選び、ボタン操作ひとつで簡単に指定できる。98年のスタート以来、すでに15万ドルを集めたという。

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 またNPOが電話会社と契約して、長距離電話をかけると料金の一部が寄付に回るサービスを提供しているケースもある。利用者は毎年、自分たちの利用料から、どんなNPOにどれぐらい寄付したいかを希望でき、希望が多い団体の順に寄付金が割り振られる仕組み。寄付の分だけ通常より料金が高めだが、順調に利用者を集めている。

 米国のNPOはすそ野が広く、歴史が浅い小規模のNPOが多数ひしめいている。だからNPOのスタッフたちは常に団体同士の競争を意識し、あまり手間をかけずに寄付してもらえるよう知恵を絞る。NPO自身がイベントのチケットを販売して収益を活動資金に充てるという伝統的な手法をとる場合でも、ほかの団体と競合しないようにユニークな内容を考え出す。

 そのためには通常のビジネスと同様、マーケティングが欠かせない。支援者たちの年齢や志向を予想し、コンサートならクラシックがいいのか、ロックなのか、料金はどれくらいにするか判断する。支援者を納得させるため、実現的な収支計画を明示することも心がける。日本ではイベント開催に先立ち、主催するNPOのスタッフに「いくら集めたいのか」と尋ねると、「いくらでも」「集められるだけ」といった答えが返ってくることがある。気持ちは分かるが、それでは「どんぶり勘定」と思われても仕方ない。

 米国で資金調達の手法が洗練された背景にはNPO間の競争意識に加え、専門知識を持つ人材の存在がある。企業との間で人材の交流があり、ビジネス感覚を持つ人がNPOに参加している。私が知っている人にも、ゼネラル・エレクトリック(GE)からNPOに転じた例がある。

 大企業勤めより収入の水準が下がるという事情は日本と同じだが、社会に貢献する仕事にやりがいを感じる人が多い。援助のため途上国で働くといったNPO独自の経験がキャリアとして評価され、企業に戻るチャンスもある。

 資金集めなどの助言を得意とする専門コンサルタントの存在も見逃せない。インサイツ・イン・アクションもその一つで、NPOなどで20年以上のキャリアを持つ女性、デボラ・マクグラフリンさんが社長を努めている。同じような助言をするNPO支援組織もあり、有料だが質の高いセミナーなどを開いている。

 米国にはNPOの資金調達を円滑にする仕掛けとして、寄付する側に減税の恩典があることは広く知られている。日本でも官民でこうした優遇税制が検討されており、早期の実現が望まれるところだ。ただ、制度ができたとき、それを十分に生かすためには、NPO側の経済観念や実務能力の向上が必要だろう。