1999/12/06 日本経済新聞
NPO法施行から1年 法人認証1000団体越す 福祉目立つ 市民団体などの非営利組織(NPO)に法人格を与え支援する特定非営利活動促進法(NPO法)が昨年12月に施行され、11月30日現在で1030の法人が誕生した。来年4月に始まる介護保険、地域づくりなど活躍の場は広がりつつあり、民間企業の競争相手となる団体も出てきた。ただ、法人格取得の利点が少ないという声もあり、税制面の優遇など制度改正が今後の課題となりそうだ。 全国四十七都道府県と経済企画庁が法人格の認証を与えた団体数は先月下旬に千件を突破した。環境、国際協力など十二分野に分かれる活動範囲の中で、最も多くの法人が取り組んでいるのは福祉。認証団体数が220と全国最多の東京都で半数以上、千葉県や栃木県でも約8割を占める。 福祉分野の団体が多い背景には、介護保険で民間事業者がカバーできないすき間を埋めようという自治体やNPOの狙いがある。東京都武蔵野市は11月、NPOが運営する小規模な施設を開設した。施設は市民から寄贈された家屋を利用し、運営費は市が年間千万円を限度に補助する。主に介護保険の中でサービスが受けられなくなる高齢者を対象に通所介護、短期入所介護などを実施する。「地域の実情に合った小さい施設を運営するにはNPOが最適」(市高齢者福祉課)と判断した。 福祉以外にも活躍の場は広がっている。東京・多摩ニュータウンのNPO・FUSION長池は住民主導の地域づくりを進めている。里山活動、祭りなど今年はすでに50回のイベントを開いたほか、情報誌の発行、インターネットによる情報提供も実施。今では六千世帯以上が参加する。 民間企業と対等に渡り合う団体も出てきた。三重県が今年6月、市民団体の活動を紹介する情報システムの受注企業を募集したところNPO一団体、民間企業三社から応募があった。「市民の立場に立った企画」(県NPO室)が評価され、NPOのアスクスネットワークが企業を押しのけて受注した。 NPOの活動は今後も広がりそうだが、各団体からは「法人格取得は社会的信頼が増すというだけで、活動を支える制度として不十分」という不満が根強い。 このため群馬県は昨年4月に創設したNPO向け低利融資の対象を、従来の環境関連から全団体に拡大する。設備資金が対象だが、来年度以降は運転資金にも拡大する考え。神奈川県や埼玉県でも研修会などの人材育成を進め、各団体を支援していく予定だ。 民間でも大東京火災海上が8月下旬、業界で初めてNPO向けの総合保険を発売した。損害賠償だけでなく、活動するメンバーの傷害なども保証する。すでに二百団体が保険に入った。 「課題は税制優遇」 法制度への不満 根強く 一日、東京都内で「NPO法(特定非営利活動促進法)施行一周年記念シンポジウム」が開かれた。出席した代議士は「法律の付帯決議を一年前倒しして、見直し作業を始めた。年末の税制改正に合わせて案を出し、実現を目指す」と発言、会場のNPO関係者から期待の声が上がった。 衆参両院の議員230人以上で作る「NPO議員連盟」が同日打ち出した法改正への提言は 1.NPO法人の中で実績を上げた団体を認定する明確な基準と仕組みを作る 2.認定NPO法人への寄付金に対する所得控除・損金算入制度を創設する 3.地方税の減免と不動産の寄付に対する税制優遇を検討する といった内容。提言は法制度に対するNPOの不満の裏返しでもある。 NPO事業サポートセンターの田中尚輝事務局長は「NPO法の最大の問題は税制優遇措置が不十分なことだ」と指摘する。しかも認証手続きに時間がかかるため、資本金があるならば会社を興す方が簡単。このため「NPO法人に魅力を感じない」という団体が多いという。 「NPO法には根本的な問題もある」と言うのはコミュニティ・ビジネス・ネットワークの細内信孝氏だ。NPO法人が十二分野に限定されるなど中央官庁の認証可という色合いが濃く、自由な市民活動を育てる姿勢がないとみる。 田中氏はNPO自身の課題も指摘する。日本のNPO法人は小規模なボランティア団体的な意識が強く、事業の継続性や責任の所在があいまいな面がある。NPOでの経験が企業に評価され、高給でヘッドハンティングされる例が珍しくない米国との差は大きい。 |
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