1999/12/06 日本経済新聞

NPO法1周年の転機

税制優遇の実現待ったなし

 ○---特定非営利活動促進法(NPO法)施行一周年の12月1日夜、都内で市民団体などが主催する記念シンポジウムが開かれた。自民党の熊代昭彦氏や民主党の金田誠一氏、社民党の辻元清美氏らNPO法制定に功績があった各党代表が出席し、税制優遇措置の実施に向けて決意を表明した。この集会には超党派のNPO議員連盟会長の加藤紘一前自民党幹事長も出席し、注目を集めた。

 加藤氏のような自民党の大物政治家が地味な市民団体主催の集会に顔を見せるのは極めて珍しい。加藤氏はあいさつで「これからの日本は地域コミュニティを再構築し、自立した個人が公益的な活動を通じて自己実現できるような社会をめざすべきだ。そのためにはNPOがもっと活動しやすい税制にしていく必要がある」と強調し、大きな拍手を浴びた。

 ○---NPO法が施行されたこの一年間で1500余りの団体が法人格取得を申請し、11月末までに1005団体が法人格を取得した。当初の予想より多い数字ではない。法人格を取得すれば社会的な認知が高まるなどのメリットがある半面、事務や経理に手間がかかり、税制優遇もないので法人格取得をためらった団体がかなりあったようである。このため、自立的なNPOの活動をさらに促進するには税制優遇措置の実現が不可欠であるとの認識が国会議員の間にも急速に高まってきた。

 加藤氏が会長を務めるNPO議連は副会長格に鳩山由紀夫民主党代表と土井たか子社民党党首が座り、総勢234人の国会議員が参加している。なぜか共産党が除外されているが、国会に数多くある議員連盟の中でも最大級の議連である。そのNPO議連が一日に総会を開き、税制優遇措置の提言をまとめた。

 ○---提言の内容は 1.公益活動に見るべき実績をあげたと認められたNPOを認定NPO法人(仮称)とし、個人がこれに寄付した場合、百万円までの所得控除か、寄付金の20%の税額控除を認める 2.法人が寄付する場合も五百万円までの所得控除か、寄付金の20%の税額控除を認める 3.認定NPO法人の収益事業は40%までをみなし寄付として認める ---などである。議連ではこの提言を「現時点での各党の最大公約数」と位置づけている。

 NPO法の付則と付帯決議では税制優遇措置について2000年11月末までに結論を出し、2001年11月末までに必要な措置を講じるとされている。来年を待たずに議連がいち早く動き出したのは、この問題で大蔵省・税務当局の壁が厚いために、早めに方向を打ち出す必要があると判断したからだ。一日のシンポジウムで自民党の熊代氏は「来年やればいいのではなく、この年末の自民党税制改正大綱にどこまで要求を盛り込めるかがポイント」と語った。

 ○---優遇措置の中身では各党があまり隔たりはない。しかし、税制優遇を受けるNPOをどの機関がどういう基準で認定するかについては各党間に違いがある。米国では日本の国税庁に相当する内国歳入庁が認定機関になっており、自民党などは「認定機関は国税庁でいい」との立場だ。野党や市民団体などは「認定機関は中立的で官僚の裁量を排除する必要がある。国家行政組織法上の三条機関を設けるべきだ」と主張しており、この問題の調整がこれからの焦点になりそうである。

 国と地方を合わせた政府の借金の累計は600兆円を超えて、もはや行政だけに依存することは不可能になった。みんなでカネを出し合って自立的なNPOを育て、福祉や環境保護、まちづくり、教育などに取り組む時代にいや応なくなりつつある。NPOへの税制優遇措置の実現は待ったなしの課題である。同時に、この問題を通じて日本に寄付の文化を確立するまたとないチャンスでもある。

(編集委員 安藤俊裕)